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生活習慣病

生活習慣病

生活習慣病とは生活習慣が発症原因として深く関与している疾患で、偏食、運動不足、喫煙、ストレス、不眠などが原因で糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症や高中性脂肪血症など)、高血圧、高尿酸血症などです。また疾患ではなく病態ですが肥満症やメタボリックシンドロームも重要な生活習慣病です。これらの疾患の初期は症状がなく放置されがちですが、この時期から治療を開始しないと、動脈硬化性疾患、すなわち心臓病(狭心症、心筋梗塞など)や脳血管障害(脳梗塞など)、末梢血管障害などが生じやすくなります。例えば糖尿病を放置すると、動脈硬化性疾患の他に腎障害、失明、神経障害の原因となります。心筋梗塞や脳梗塞などが発症しないように、糖尿病、脂質異常症、高血圧症などを治療していきましょう。

当院では動脈硬化の程度をみる検査としてCAVY(キャビィ)、ABI(エービーアイ)頸動脈エコーを行っています。詳しくはコチラ>>

動脈硬化症について 詳しくはコチラ>>

糖尿病

糖尿病は、血糖を下げる作用のホルモンであるインスリンの作用不足によって血糖が高くなる病気です。初期には症状がありませんが、放置するとさまざまな糖尿病合併症、腎障害、眼障害、神経障害、動脈硬化性疾患(脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、末梢血管障害など)が生じてきます。初期段階から治療を行っていくことが大切です。糖尿病と正しく向き合い、生活習慣を改善することで、合併症を予防しましょう。

糖尿病の主要な病型は1型と2型に分けられます。1型糖尿病はインスリンを産生する膵臓のβ細胞が壊れてしまい、まったくインスリンが分泌されなくなってインスリンの注射が欠かせません。一方、一般に糖尿病という場合は、2型糖尿病のこと。元来、糖尿病になりやすい遺伝的な体質があるうえに肥満・運動不足・ストレスなどの不適切な生活習慣が加わり、40歳代から急速に増えるので、日本人の糖尿病患者の95%以上はこのタイプといわれます。

生活習慣が悪くて発症する2型糖尿病の予防法は

2型糖尿病の患者さんのほとんどは、糖尿病になる前から、食事に反応してすばやくインスリンが分泌されないか、そのインスリン分泌量が少ないという体質を持っています。こうした状態に、生活習慣(食べすぎや、運動不足、過度の飲酒、喫煙、ストレスなど)が加わると、肝臓や筋肉のインスリンに対する反応が悪くなり、さらにインスリンが不足した状態になり空腹時の血糖値も高くなります。しかし生活習慣の改善によって糖尿病発症を予防することが可能です。その基本は食生活の見直しです。肥満や動物性脂肪のとりすぎはインスリンの分泌や作用の低下につながるなど、食事は血糖値を大きく左右します。毎日の食事ではエネルギーをとり過ぎず、栄養バランスに気を付け、1日3食規則正しくとることが重要です。さらに自分に向く運動を続け、ストレスを溜めず、喫煙や過度の飲酒は控えましょう。

早期発見の方法は

定期的に尿検査(食後の方が良い)や血液検査(朝食前が良い)を受けましょう。尿検査で尿糖が陽性の場合や、朝食前の血液検査で血糖値(早朝空腹時血糖値)が110mg/dl以上の場合は、精密検査を受けてください。

早朝空腹時血糖値は、健康な人なら70~109mg/dlですが、糖尿病および糖尿病予備群の患者さんたちは、110mg/dl以上になります。早朝空腹時血糖値が126mg/dl以上であれば「糖尿病型」です。早朝空腹時血糖値が110~125mg/dlであれば精密検査である75グラムブドウ糖負荷検査(75gOGTT)で、正常型か、境界型(糖尿病予備群)か、糖尿病型かを判定します。早朝空腹時血糖値が100~109mg/dlの正常域でも「正常高値」として75gOGTTの検査が勧められています。

また食後からの時間を決めないで採血し、血糖値を測る検査を随時血糖検査といいます。随時血糖値が200mg/dl以上ある場合は、「糖尿病型」と診断されます。

糖尿病の診断

以下のいずれかの場合、「糖尿病型」と判定し糖尿病が強く疑われます。
糖尿病の診断については下記のフローチャートを参照。

  1. 早朝空腹時血糖値 126mg/dl以上
  2. 75g経口ブドウ糖負荷試験で2時間値200mg/dl以上
  3. 随時血糖値200mg/dl以上
  4. HbA1cが6.5%以上 

糖尿病の臨床診断のフローチャート『日本糖尿病学会編・著 2022-2023 糖尿病治療ガイド』

糖尿病の治療

  1. 生活習慣の改善:食事療法、運動療法、禁煙、節酒が重要です。
    ①食事療法
    体重増加は、血圧の上昇や大きな病気へつながるおそれがありますので注意しましょう。『糖尿病食事療法のための食品交換表』を活用して、栄養バランスに配慮した食生活を送りましょう。食品交換表では、私たちが日常食べている多くの食品を、主として含まれている栄養素によって、6つの食品グループに分けています。毎食、主食、主菜、副菜を組み合わせて栄養バランスをとりましょう。
    ②運動療法
    運動はウォーキングのような「有酸素運動」を1日30分程度行いましょう。しかし、合併症を持っている人は、運動を禁止あるいは制限した方がよい場合がありますので、かかりつけ医に運動の種類や強さについて相談の上、無理のない運動を行い適正な体重維持をしましょう。運動をする、お勧めの時間帯は、食後1時間くらいの時です。血糖値が上昇し始めるタイミングで運動を始めることで、血糖値を抑えることができます。
    ③禁煙
    喫煙はあらゆる病気に悪影響があるといってよく、特に高い濃度のブドウ糖にさらされて動脈硬化になりやすくなっている血管は、喫煙によってさらに動脈硬化を進めます。禁煙などできそうにないという人は、市販の禁煙補助剤を利用するとか禁煙をサポートする外部の助けを借りる、あるいは思い切ってニコチン依存症として治療を受けるなどのことを考えてもよいでしょう。
    ④節酒
    アルコールはできれば禁酒がよいのですが、血糖値のコントロールが良好で安定し、糖尿病の合併症や飲酒制限のある病気がなく、動脈硬化性疾患を併発していても軽度で、飲酒量の限度を守る自制心があるなどの条件下でアルコール摂取が許されます。その飲酒量の目安は1日あたり160kcal程度であれば許容範囲であると言われています。ビールや発泡酒なら350ml缶で1本、ワインならグラスに2杯、ウイスキーなら30mlシングル2杯、日本酒(清酒)なら140ml、焼酎なら80ml程度を守るよう心がけましょう。
  2. 薬物治療:生活習慣の是正で改善しなかった場合、薬物治療が必要です。医学が進歩し、さまざまな種類の薬が利用できます。その中からより良い薬を選びます。

糖尿病の合併症について

糖尿病の合併症は、毛細血管を中心に生じる細小血管障害と、比較的太い血管に起こる大血管障害に大別することができます。
三大合併症として知られる「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」は、いずれも細小血管障害であり、糖尿病発症後10年前後の経過を経て、出現すると考えられています。一方、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となる動脈硬化は大血管障害にあたり、境界型糖尿病と呼ばれる糖尿病予備軍の段階から発症・進展することがわかっています。
最近新たな糖尿病合併症としてがん・認知症・骨粗しょう症が注目されています。
日本糖尿病学会と日本癌学会の調査研究で2型糖尿病では全がんの発症リスクが1.2倍に上昇することが分かりました。中でも膵臓がん1.85倍、肝臓がん1.97倍、大腸がん1.40倍が有意に高く、がん検診を受けることが大切です。糖尿病者は非糖尿病者に比べて認知症を発症する危険性が2~4倍高いと言われています。認知症は「アルツハイマー型」と「脳血管型」に大きく分けられますが糖尿病ではどちらの認知症でも罹患率が高くなっています。
2型糖尿病では非糖尿病者に比べて骨折率が上昇し、大腿骨近位部骨折は1.7倍増加しています。骨量減少による骨粗しょう症のみではなく高血糖による骨質の劣化が重要と考えられています。経口血糖降下薬の骨への影響も考えられています。これら3つの新たな合併症は生命や生活の質への大きな脅威となる問題であり、対策が確立されるまで良好な血糖コントロールと生活習慣の改善に努めることが重要です。

「日本糖尿病学会編・著 2022-2023 糖尿病治療ガイド」一部追加

脂質異常症

脂質異常症とは、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高中性脂肪血症、高non-HDLコレステロール血症を指します。
コレステロールには、動脈硬化を進行させるLDL(悪玉)コレステロールと、それを阻止するHDL(善玉)コレステロールがあります。血液中にLDLコレステロールが増えすぎることによって、血管の内腔が狭くなったりつまったりして動脈硬化が進行します。LDLコレステロールとともに中性脂肪も、血管を障害することがわかっています。

脂質異常症は動脈硬化性疾患(脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、末梢血管障害など)の原因となります。LDLコレステロール、中性脂肪、non-HDLコレステロールが高いほど、またHDL-コレステロールが低いほど冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞の発症率が高いことが示されていますので、それを予防するために症状が出ていない時期に脂質異常症の治療が重要です。

(1)脂質異常症診断基準

脂質異常症診断基準表

(2)脂質異常症の治療
  • 生活習慣の改善:食事療法、運動療法、禁煙、節酒が重要です。
  • 薬物療法:体の状態により良い薬を選ぶ必要があります。
  • 管理目標値:体の状態によりLDLコレステロールの目指すべき値が異なります。
    糖尿病があれば120mg/dl未満を目指す。糖尿病でさらに末梢動脈疾患、最小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dl未満を目指す。
    冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞の再発予防(二次予防)では100mg/dl未満、急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併の再発予防(二次予防)では70mg/dl未満を目指します。

高血圧

高血圧も動脈硬化性疾患(脳卒中、心筋梗塞、心不全、慢性腎臓病など)を予防するために治療します。従って、脂質異常症と同様に、症状が出ていない時期から治療する必要があります。

(1)高血圧の診断

高血圧は、正常者の血圧より高い血圧値を持続している場合をいいます。
日本高血圧学会では、
収縮期血圧(上の血圧)で140mmHg、拡張期血圧(下の血圧)で90mmHg以上が高血圧と定義しています。ただし、高血圧かどうかは自分で判断せず、医師に診断してもらいましょう。
診療所や病院で測る血圧値は140/90mmHg以上
家庭血圧値は135/85mmHg以上が高血圧です

(2)高血圧の予防

高血圧は、からだの中の高血圧の遺伝素因に加えて、塩分の多い食事、運動不足、過剰なカロリーの摂取や肥満、お酒の飲み過ぎなどの環境要因が加わることによって発症します。そのため、高血圧は「生活習慣病」とも呼ばれています。高血圧を予防するためには生活習慣の改善が大切ですし、高血圧を発症した場合には、さらなる生活習慣の改善が重要になります。

1. 食事療法―減塩とカリウムをとりましょう
塩分ととり過ぎると、それを薄めるためからだは血液中の水分を増やすように働きます。そのため血液のかさが増え、血管にかかる圧力が高くなり、高血圧になります。ですから高血圧に治療で減塩は基本となります。日本人1日あたりの平均塩分摂取量は11.2g(平成18年国民健康・栄養調査)で欧米に比べてかなり高い状態です。塩分を減らすと血圧が下がるのは明らかなため、ガイドラインでは1日6g未満が推奨されています。カップ麺1食でもスープまで飲むと1日6g未満の目標とほぼ同じ量の食塩になります。うどんやそば、ラーメンの汁は飲まない、丼ものより定食、生ハム、ソーセージ、ベーコン類は高食塩食品で注意、お酢やレモンなどの香味を利用した味つけをするなど、日常の中で工夫をして塩分をとりすぎない生活習慣を心がけましょう。
カリウム(K)は魚、牛乳、果物類、豆類、野菜類などに含まれる栄養素です。体内の余分な塩分(ナトリウム)を体の外へ排泄することによって血圧を下げることがわかっています。ほうれん草やバナナ、納豆、ひじきなど、積極的にカリウムを摂る食事を心がけましょう。但し、全体のカロリー摂取がオーバーにならないように気をつけ、また腎臓の悪い人はカリウムの摂りすぎに注意しましょう。
2. 運動療法―日常生活の中でも体を動かしましょう
運動をすると、体内のホルモンや血液の量、交感神経系の働きなどが血圧を下げるように変化します。
高血圧対策として好ましい運動は、散歩やスロージョギング、サイクリング、水泳、テニス、ラジオ体操など、有酸素運動と呼ばれるものです。身体の中の糖分や脂肪分を、酸素を使って分解してエネルギーとして用いる運動で、たとえば1日30分の早歩きを3力月ほど継続すると血圧低下の効果が現れてきます。重量あげのような筋力トレーニングや短距離走のような無酸素運動はあまり適しません。またスポーツジムや屋外の運動ばかりでなく、駅の階段の上り下りや家の中の掃除など、日常生活のいろいろな場面で意識的に運動を取り入れる工夫をしてみましょう。
3. 減量―太り気味の人は体重を減らすことが大切です
肥満の人は高血圧だけでなく、高脂血症や糖尿病などの頻度も高く、心臓病、特に狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を起こす割合が高いことがわかっています。やせると血圧が下がることは明らかにされており、太っている人は身体を動かし運動量を増やしたり、食事の摂取カロリーを減らしたりして、減量することが必要です。
肥満の人は、体格指数(BMIボディ・マス・インデックス:体重(kg)÷[身長(m)]2)で25未満を目指します。内臓脂肪が多い人ほど血圧が高いので、腹囲(男性85cm未満、女性90cm未満)も考慮して減量を行います。
どの程度の運動をするか、心臓病や腎臓病がないかの確認など、医師の指示による運動療法が大切です。
4. 節酒―ご家族の協力で節酒を心がけましょう
適度の飲酒は血行をよくしたり、ストレスを解消するなど、健康づくりに役立ちます。しかしお酒をたくさん飲むと血圧が上昇し、なかなか下がりにくいことがわかっています。適量飲酒を心がけましょう。ビール中びん1本、日本酒1合、ワイングラス2杯、焼酎0.5合、ウイスキー・ブランデーダブル1杯程度が適量の飲酒の目安です。
5. 禁煙―喫煙に良いことなし
タバコは交感神経系を興奮させるため、タバコを吸うと一過性に血圧が上がります。それだけではなく、タバコはニコチンの他、多くの有害物質が含まれるため、がんや動脈硬化症の危険因子であり、脳卒中や狭心症、心筋梗塞などの発症の危険性が高くなります。今タバコを吸っている人も禁煙に成功すれば、このまま吸い続けた場合に比べて、健康への障害は減少する可能性があります。当院の禁煙外来で禁煙してみませんか?
6. ストレスを解消しよう
「ストレス」とは、心理的重圧や精神的動揺、過度の肉体的負担などのことです。ストレスがたまると血圧は上がります。慢性的なストレスが高血圧との関係が深く、真面目な完璧主義者では高血圧の人が多いといわれています。現代社会ではストレスを受けない生活は望めませんから、日常生活を工夫したり、気持ちの切り換え方を習得するなど、自分に合った「ストレス」解消法をみつけてください。
7. 良い睡眠をとりましょう
睡眠不足は交感神経系を興奮させ血圧が高くなります。睡眠はこころとからだの健康づくりに欠かせません。良い睡眠は生活習慣病の予防にもつながります。適度な運動と規則正しい生活を送ることで睡眠覚醒リズムにかかわる体内時計をしっかりと調整し、良い睡眠がとれるような環境づくりも重要です。
(3)高血圧の治療
  • 生活習慣の改善:高血圧の予防と同様に食事療法、運動療法、節酒、禁煙、ストレス解消、睡眠などが重要です。
  • 薬物療法:より良い薬を選ぶ必要があります。
  • 降圧目標

    年齢や合併症の違いなどから、ひとりひとりの降圧目標値は異なります。日本高血圧学会は、2019年に5年ぶりに改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を発表し、降圧目標値が示されています。新しいガイドラインで示された高血圧の基準値は従来通り、診察室血圧が140/90mmHgで、家庭血圧が135/85mmHg。正常血圧は診察室血圧120mmHg未満かつ80mmHg未満であり、正常高値血圧(診察室血圧120~129かつ80mmHg未満)以上のすべての者は、生活習慣の修正が必要で、高リスクの高値血圧者および高血圧者(診察室血圧140/90mmHg以上)では、生活習慣の修正を積極的に行い、必要に応じて降圧薬治療を開始することが推奨されました。
    降圧目標は、診察室血圧が130/80mmHgで、家庭血圧が125/75mmHg。糖尿病患者、CKD患者(蛋白尿陽性)、抗血栓薬服用中の患者などの降圧目標も、従来通り130/80mmHg未満(家庭血圧は125/75mmHg未満)になりました。ただし、75歳以上の高齢者の降圧目標は140/90mmHg未満とより強化され、さらに併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、75歳以上でも忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指します。

年齢・病態別の降圧目標
  診察室血圧 家庭血圧

75歳未満の成人
脳血管障害(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
冠動脈疾患
慢性腎臓病(尿蛋白陽性)
糖尿病
抗血栓薬内服中

130/80(mmHg)未満

125/75(mmHg)未満

75歳以上の高齢
脳血管障害(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)
慢性腎臓病(尿蛋白陰性)

140/90(mmHg)未満

135/85(mmHg)未満

           

  • 診察室血圧と家庭血圧に乖離が生じた場合には、家庭血圧の値を優先して判断する
  • 診察室血圧130~139/80~89mmHgの場合は、まず生活習慣の修正を開始または強化する
  • 尿蛋白陰性の慢性腎臓病では130/80mmHg未満の厳格な降圧の有効性を示すエビデンスは乏しく、JSH2019では降圧目標を140/90mmHgとしているが、腎機能・年齢に応じた個別化対応が必要である
  • 『高血圧治療ガイドライン2019(日本高血圧学会)』blank
    『日本高血圧学会 高血圧診療ガイド2020作成委員会編:高血圧診療ガイド2020』
    ※Adobe Acrobat ReaderがないとPDF閲覧できません。

    メタボリックシンドローム

    内臓肥満に加えて、高血圧、高脂血症、糖尿病のうち2つ以上を併発するとメタボリックシンドロームと呼びます。食べ過ぎと運動不足が原因の場合は、生活習慣を見直すのがお勧めです。しかし放置すると動脈硬化によるいろいろな合併症を併発し命にかかわる状況になります。

    メタボリックシンドロームの診断

    内臓肥満があることが必須項目とされ、厳密にはへその高さで腹部CT写真をとり、内臓脂肪面積が100cm2以上であれば内臓肥満があると判定します。ただし、日常臨床の場では、立位で軽く息を吐いた状態で、へその高さで腹囲(ウエスト周囲径)を測定し、男性では85cm以上、女性では90cm以上を内臓肥満ありと判定します。そのうえで、脂質異常症・血圧高値・空腹時高血糖の3つの異常のうち2つ以上を合併するとメタボリックシンドロームと診断することになります。これらの異常の一つ一つは軽微で、それぞれの病気の診断基準を満たさない“予備群”や“軽症”の状態であっても、複数の異常が重なっている場合は、動脈硬化がより進行し、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患をひき起こす危険性が格段に増加します。「メタボリックシンドローム」は動脈硬化の進行予防のため、“すぐにでも手を打たなければならない状態”として捉える必要があるのです。

    メタボリックシンドロームの診断基準
    1. 腹部肥満 ウエスト周囲径(立位で軽く息を吐いた状態のへその高さの腹囲)
    男性85cm以上 女性90cm以上

    2. 血清脂質異常 中性脂肪値 150mg/dl以上
    HDLコレステロール値 40mg/dl未満
    (いずれか、または両方)
    3. 血圧高値 収縮期血圧(最高血圧)130mmHg以上
    拡張期血圧(最低血圧)85mmHg以上
    (いずれか、または両方)
    4. 血糖高値 空腹時血糖値 110mg/dl以上

    腹部肥満に脂質異常症・血圧高値・空腹時高血糖のうち2つ以上を有する場合をメタボリックシンドロームと診断する、と規定しています。

    (日本肥満学会、日本糖尿病学会、日本動脈硬化学会など8学会が合同で2005年公表、「メタボリック症候群の診断基準」より)

    適正体重―身長から、自分の適正体重を知る

    ①身長(m) × 身長(m) × 22 = 適正体重
    たとえば、1m70cmの方なら 1.7 × 1.7 × 22 = 63.58

    63.58kgが適正体重となります。

    肥満の定義はBMIが25以上―体重と身長から、オーバーウエイトの度合を計算する

    ②体重 (kg) ÷ 身長 (m) × 身長 (m) = BMI

    BMI(Body Mass Index)は、①適正体重の計算式の22にあたるものです。
    たとえば、1m70cmで体重が75kgの方なら 75 ÷ (1.7 × 1.7) = 25.95
    BMI値は25.95になります。
    BMIが25以上を肥満とするのは、病気を持つ割合が低いとされるBMI22に対して、病気を持つリスクが2倍になるからです。
    また、やせすぎ(BMI値が18.5以下)もよくありません。

    脂肪の種類別に肥満のタイプがある-皮下脂肪型と内臓脂肪型

    肥満には脂肪がついている部位で2つのタイプがあります。皮膚のすぐ下の脂肪がたまる皮下脂肪型と内臓の周囲に脂肪がたまる内臓脂肪型です。見分け方はおなかに力を入れてつかめるなら皮下脂肪型、つかめないなら内臓脂肪型です。健康への悪影響が大きいのは内臓脂肪型肥満では、血圧、血糖、血中脂質値などの異常を来たしやすく、その結果、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病が重なりやすいことがわかっています。内臓脂肪はたまりやすい一方、エネルギー不足のときは率先して使われます。つまり、食事制限や運動でエネルギー不足状態になれば減っていくのです。内臓脂肪は適した食事療法と運動により比較的速やかに減らすことが可能なのです。

    体重の減らし方―食事療法と運動

    食事療法

    肥満は、摂取カロリーが消費カロリーを上回るために起こります。摂取カロリーが多い食生活、消費カロリーが少ない生活習慣が、メタボリックシンドロームの原因となるのです。

    食事の栄養素の中で、カロリーに影響する栄養素は、炭水化物、たんぱく質、脂肪で、これらを3大栄養素といいます。この3大栄養素の量と質が、病気の予防のためには大切です。食生活の欧米化によって牛乳、乳製品、肉類など動物性脂肪が多い食事に変化しました。日常生活の運動量の減少とともに、食事の変化が肥満症やメタボリックシンドローム、糖尿病が増えてきた原因と考えられています。それでは1日に必要なエネルギー量はどれくらいでしょうか?それはその人の身長と一日の仕事量で決まります。

    1日の必要なエネルギー量(kcal)

    まずは1日に必要なカロリー量を知っておきましょう。
    下の表は適正体重1kgあたり一日に必要なエネルギー量の目安です。

    デスクワーク中心の人 25~30kcal
    立ち仕事や外回りが多い人 30~35kcal
    体をよく動かし力仕事が多い人 35~40kcal

    摂取エネルギーと消費カロリーのバランス(収支)を改善することで、内臓脂肪は減少します。標準体重とふだんの労作量(身体活動量)から適正なエネルギー量を表に示します。

    身長 適正体重 1日の必要なエネルギー量(kcal)
    25(kcal/kg) 30(cal/kg) 35(kcal/kg) 40(kcal/kg)
    1.8m 約71kg 1775 2130 2485 2840
    1.7m 約64kg 1600 1920 2240 2560
    1.6m 約56kg 1400 1680 1960 2240
    1.5m 約50kg 1250 1500 1750 2000

    ※横スクロールでご確認ください。

    食事療法のポイント
    1. 腹八分目を心がける
    2. 食品の種類はできるだけ多くする
    3. 脂肪は控えめに
    4. 植物繊維を多く含む食品(野菜、海藻、きのこなど)をとる
    5. 食事は食物繊維の食材から食べる
    6. 朝食、昼食、夕食を規則正しく
    7. よく噛んで食べる(一口を30回くらい)
    8. 夕食は20~21時までに済ませる。就寝前に食べない
    9. 間食はできるだけ控える
    10. 清涼飲料、砂糖入り缶コーヒーやスナック菓子、アイスクリームなど甘いものは控える
    運動療法

    内臓脂肪をたまりにくくするには、日常的な運動習慣を身につけることが大前提です。内臓脂肪が蓄積しやすい人は、ふだん「体を動かすことを心がけていない」という特徴があります。

    1)運動療法の作用

    運動には、エネルギーの摂取量と消費量のバランスをよくして体重を減量させる作用があります。それ以外に以下のような身体に対する利点や生活の質の改善が挙げられます。

    1. 血糖値が低下する
    2. 高血圧や脂質異常症が改善する
    3. 冠動脈疾患、心臓病や脳卒中のリスクが低下する
    4. 心肺機能がよくなる
    5. 加齢や運動不足による筋萎縮の骨粗しょう症の予防となる
    6. 加齢に伴う慢性疾患や病気の予防や進行を遅らせ、生活の質を維持し、高齢者の自立を促す(認知症、老化の予防)
    7. ストレスが解消される
    2)運動の種類

    主な運動として、酸素を消費しながらおこなう「有酸素運動」、鍛えようとする骨格筋に抵抗(レジスタンス)をかけておこなう「レジスタンス・トレーニング」、筋肉を引っ張り伸ばす「ストレッチング」の3種類があります。

    有酸素運動はウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどで、脂肪を燃焼させることが可能です。一人でできて長く続けられるものがお勧めです。レジスタンス・トレーニングには筋力を増やし、インスリン感受性を改善させる作用があります。ストレッチングは、有酸素運動やレジスタンス・トレーニングの前後におこない、準備運動、整理運動としての役割と、関節をやわらかくし、それ自体でエネルギー消費になります。

    3)運動の強度

    望ましい運動の強さは、やや汗ばむ程度の速足歩行やスロージョギングがお勧めです。激しい運動はあまりお勧めできません。特に40歳を超えてからの激しい運動は発生する活性酸素の悪影響が少なくないと言われています。活性酸素は体内のたんぱく質を酸化し、いわゆる「老化現象」を引き起こし、血管の老化も招いて「動脈硬化」や「心筋梗塞」などのリスクを高めます。海外の研究で激しいジョギングをする習慣のある人は死亡リスクが高いとの報告もあります。

    心臓病や糖尿病で治療中の方は、実際に体を動かしてもらう運動負荷検査で、安全におこなえる運動の強さを決めたり、低血糖や網膜症(糖尿病で合併する目の網膜の血管の病気)や腎症(糖尿病で合併する腎臓の病気)の有無などを評価したりしたうえで、安全に運動ができる方法を決める必要があります。糖尿病の方で神経障害が進行しているときに、運動による靴ずれや足のけがに気づかず、感染などが悪化することがあります。足の皮膚の状態にも注意してください。

    4)運動負荷量

    100kcal消費する運動と時間(体重60kgの場合)は軽い運動(軽い散歩、体操)30分前後、やや強い運動(ウォーキング(速歩))25分前後、強い運動(ジョギング)10分前後です。手軽なのはやはりウォーキング。体脂肪を減らしたい場合は20分以上の有酸素運動が必要という認識の人が多いかもしれませんが、現在の定説では連続で10分でも作用が得られます。つまり10分の有酸素運動を1日3回に分けて別の時間に行ったとしても、連続で30分運動を行ったのと同様の作用があるとされています。尚、それぞれの10分間に関しては途切らせずに運動をする必要があります。

    膝や腰が痛い時は体重が減少するまでは、自転車(エアロバイク)や水中歩行など関節に負担がかからない運動を選んでください。

    歩行運動では一日1万歩、消費エネルギーとしてほぼ160~240kcalは適当とされています。しかし一日1万歩を目標にするのは時間に余裕がある人では可能かもしれませんが、「忙しくて運動する時間がとれない」「運動が好きではない」人が多いのも現状。そのような人はまずNEAT(ニート)を増やすことを目指しましょう。

    NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesisニート/非運動性活動熱産生)とは「日常の生活活動で消費されるエネルギー」のことで、身体活動によるカロリー消費の中では「意識して行う運動」と同様に消費カロリーに大きな影響を与えることが最近の研究でわかってきました。特別な運動をしなくても、NEATを増やせば、メタボや糖尿病を防ぐことができるのです。

    肥満気味の人はやせ気味の人よりも1日平均2.5時間座っている時間が長く、立つ・座るといった動作や歩く時間も少ない、つまりNEATが少ない傾向があると報告されています。NEATは座ったり、立ったり、うろうろしたりするといった姿勢の保持のための消費カロリーで、当然のことながら、姿勢を保持している時間は長いため、結果として消費カロリーに大きな影響を与えます。

    逆に、長時間座ったままで仕事をしたり、じっとして過ごしたりしていると、消費カロリーが少ない状態が続くことになります。

    これらのことから、仕事が忙しく運動する時間がとれない場合は以下のような普段の生活や仕事の場面などでこまめに体を動かすことをおすすめします。あえて無駄な動きをすることがコツです。エネルギー消費量は、立っているだけで安静時より1.2倍、歩けば3倍にアップします。

    NEAT習慣を身につけよう
    1. 歩ける機会は逃さず歩く、歩くときは大股で早歩き
    2. エレベーター・エスカレーターを使わず階段を使う
    3. 通勤では一つ手前の駅で下車して歩く
    4. 電車内の席には座らずに、姿勢を伸ばして立つ
    5. 姿勢をよくし、長時間座り続けるのは避ける
    6. 掃除などは「運動」だと思って体を大きく動かす
    7. テレビを見るときは横にならない、ストレッチやヨガをしながら見る
    8. 食事は一口ずつよく噛む

    このように日常の些細な行動がカロリー消費量を増やします。

    1月に体重1kg減量するには?

    1gの脂肪組織は約7kcal(キロ・カロリー)に相当します。例えば1力月で1kgの脂肪組織を減らすには、1日233kcalのマイナスバランスにする必要があります。これを数式で表すと1000(g脂肪) × 7(kcal/g脂肪) ÷ 30(日) = 233(kcal/日)となります。

    食事療法だけで1kg減量するなら一日に必要な摂取カロリーから233kcal、食べ物ならご飯1杯(140g)減量しなければなりません。

    一方、運動だけなら速歩で消費するなら約60分かかります。運動だけ、または食事だけ、どちらかに偏ると対応が難しい。体重(体脂肪)を減らすには、運動で120kcal消費し、食事で120kcal減量するような両方をバランスよく対応することが効果的で、筋力アップにもつながります。

    体重1キロ減量を目指すには1日約240kcalのエネルギー減量を