内臓肥満に加えて、高血圧、高脂血症、糖尿病のうち2つ以上を併発するとメタボリックシンドロームと呼びます。食べ過ぎと運動不足が原因の場合は、生活習慣を見直すのがお勧めです。しかし放置すると動脈硬化によるいろいろな合併症を併発し命にかかわる状況になります。
内臓肥満があることが必須項目とされ、厳密にはへその高さで腹部CT写真をとり、内臓脂肪面積が100cm2以上であれば内臓肥満があると判定します。ただし、日常臨床の場では、立位で軽く息を吐いた状態で、へその高さで腹囲(ウエスト周囲径)を測定し、男性では85cm以上、女性では90cm以上を内臓肥満ありと判定します。そのうえで、脂質異常症・血圧高値・空腹時高血糖の3つの異常のうち2つ以上を合併するとメタボリックシンドロームと診断することになります。これらの異常の一つ一つは軽微で、それぞれの病気の診断基準を満たさない“予備群”や“軽症”の状態であっても、複数の異常が重なっている場合は、動脈硬化がより進行し、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患をひき起こす危険性が格段に増加します。「メタボリックシンドローム」は動脈硬化の進行予防のため、“すぐにでも手を打たなければならない状態”として捉える必要があるのです。
メタボリックシンドロームの診断基準
1. 腹部肥満 |
ウエスト周囲径(立位で軽く息を吐いた状態のへその高さの腹囲)
男性85cm以上 女性90cm以上 |
+
2. 血清脂質異常 |
中性脂肪値 150mg/dl以上
HDLコレステロール値 40mg/dl未満
(いずれか、または両方) |
3. 血圧高値 |
収縮期血圧(最高血圧)130mmHg以上
拡張期血圧(最低血圧)85mmHg以上
(いずれか、または両方) |
4. 血糖高値 |
空腹時血糖値 110mg/dl以上 |
腹部肥満に脂質異常症・血圧高値・空腹時高血糖のうち2つ以上を有する場合をメタボリックシンドロームと診断する、と規定しています。
(日本肥満学会、日本糖尿病学会、日本動脈硬化学会など8学会が合同で2005年公表、「メタボリック症候群の診断基準」より)
適正体重―身長から、自分の適正体重を知る
①身長(m) × 身長(m) × 22 = 適正体重
たとえば、1m70cmの方なら 1.7 × 1.7 × 22 = 63.58
63.58kgが適正体重となります。
肥満の定義はBMIが25以上―体重と身長から、オーバーウエイトの度合を計算する
②体重 (kg) ÷ 身長 (m) × 身長 (m) = BMI
BMI(Body Mass Index)は、①適正体重の計算式の22にあたるものです。
たとえば、1m70cmで体重が75kgの方なら 75 ÷ (1.7 × 1.7) = 25.95
BMI値は25.95になります。
BMIが25以上を肥満とするのは、病気を持つ割合が低いとされるBMI22に対して、病気を持つリスクが2倍になるからです。
また、やせすぎ(BMI値が18.5以下)もよくありません。
脂肪の種類別に肥満のタイプがある-皮下脂肪型と内臓脂肪型
肥満には脂肪がついている部位で2つのタイプがあります。皮膚のすぐ下の脂肪がたまる皮下脂肪型と内臓の周囲に脂肪がたまる内臓脂肪型です。見分け方はおなかに力を入れてつかめるなら皮下脂肪型、つかめないなら内臓脂肪型です。健康への悪影響が大きいのは内臓脂肪型肥満では、血圧、血糖、血中脂質値などの異常を来たしやすく、その結果、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病が重なりやすいことがわかっています。内臓脂肪はたまりやすい一方、エネルギー不足のときは率先して使われます。つまり、食事制限や運動でエネルギー不足状態になれば減っていくのです。内臓脂肪は適した食事療法と運動により比較的速やかに減らすことが可能なのです。
体重の減らし方―食事療法と運動
食事療法
肥満は、摂取カロリーが消費カロリーを上回るために起こります。摂取カロリーが多い食生活、消費カロリーが少ない生活習慣が、メタボリックシンドロームの原因となるのです。
食事の栄養素の中で、カロリーに影響する栄養素は、炭水化物、たんぱく質、脂肪で、これらを3大栄養素といいます。この3大栄養素の量と質が、病気の予防のためには大切です。食生活の欧米化によって牛乳、乳製品、肉類など動物性脂肪が多い食事に変化しました。日常生活の運動量の減少とともに、食事の変化が肥満症やメタボリックシンドローム、糖尿病が増えてきた原因と考えられています。それでは1日に必要なエネルギー量はどれくらいでしょうか?それはその人の身長と一日の仕事量で決まります。
1日の必要なエネルギー量(kcal)
まずは1日に必要なカロリー量を知っておきましょう。
下の表は適正体重1kgあたり一日に必要なエネルギー量の目安です。
デスクワーク中心の人 |
25~30kcal |
立ち仕事や外回りが多い人 |
30~35kcal |
体をよく動かし力仕事が多い人 |
35~40kcal |
摂取エネルギーと消費カロリーのバランス(収支)を改善することで、内臓脂肪は減少します。標準体重とふだんの労作量(身体活動量)から適正なエネルギー量を表に示します。
※横スクロールでご確認ください。
食事療法のポイント
- 腹八分目を心がける
- 食品の種類はできるだけ多くする
- 脂肪は控えめに
- 植物繊維を多く含む食品(野菜、海藻、きのこなど)をとる
- 食事は食物繊維の食材から食べる
- 朝食、昼食、夕食を規則正しく
- よく噛んで食べる(一口を30回くらい)
- 夕食は20~21時までに済ませる。就寝前に食べない
- 間食はできるだけ控える
- 清涼飲料、砂糖入り缶コーヒーやスナック菓子、アイスクリームなど甘いものは控える
運動療法
内臓脂肪をたまりにくくするには、日常的な運動習慣を身につけることが大前提です。内臓脂肪が蓄積しやすい人は、ふだん「体を動かすことを心がけていない」という特徴があります。
- 1)運動療法の作用
-
運動には、エネルギーの摂取量と消費量のバランスをよくして体重を減量させる作用があります。それ以外に以下のような身体に対する利点や生活の質の改善が挙げられます。
- 血糖値が低下する
- 高血圧や脂質異常症が改善する
- 冠動脈疾患、心臓病や脳卒中のリスクが低下する
- 心肺機能がよくなる
- 加齢や運動不足による筋萎縮の骨粗しょう症の予防となる
- 加齢に伴う慢性疾患や病気の予防や進行を遅らせ、生活の質を維持し、高齢者の自立を促す(認知症、老化の予防)
- ストレスが解消される
- 2)運動の種類
-
主な運動として、酸素を消費しながらおこなう「有酸素運動」、鍛えようとする骨格筋に抵抗(レジスタンス)をかけておこなう「レジスタンス・トレーニング」、筋肉を引っ張り伸ばす「ストレッチング」の3種類があります。
有酸素運動はウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどで、脂肪を燃焼させることが可能です。一人でできて長く続けられるものがお勧めです。レジスタンス・トレーニングには筋力を増やし、インスリン感受性を改善させる作用があります。ストレッチングは、有酸素運動やレジスタンス・トレーニングの前後におこない、準備運動、整理運動としての役割と、関節をやわらかくし、それ自体でエネルギー消費になります。
- 3)運動の強度
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望ましい運動の強さは、やや汗ばむ程度の速足歩行やスロージョギングがお勧めです。激しい運動はあまりお勧めできません。特に40歳を超えてからの激しい運動は発生する活性酸素の悪影響が少なくないと言われています。活性酸素は体内のたんぱく質を酸化し、いわゆる「老化現象」を引き起こし、血管の老化も招いて「動脈硬化」や「心筋梗塞」などのリスクを高めます。海外の研究で激しいジョギングをする習慣のある人は死亡リスクが高いとの報告もあります。
心臓病や糖尿病で治療中の方は、実際に体を動かしてもらう運動負荷検査で、安全におこなえる運動の強さを決めたり、低血糖や網膜症(糖尿病で合併する目の網膜の血管の病気)や腎症(糖尿病で合併する腎臓の病気)の有無などを評価したりしたうえで、安全に運動ができる方法を決める必要があります。糖尿病の方で神経障害が進行しているときに、運動による靴ずれや足のけがに気づかず、感染などが悪化することがあります。足の皮膚の状態にも注意してください。
- 4)運動負荷量
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100kcal消費する運動と時間(体重60kgの場合)は軽い運動(軽い散歩、体操)30分前後、やや強い運動(ウォーキング(速歩))25分前後、強い運動(ジョギング)10分前後です。手軽なのはやはりウォーキング。体脂肪を減らしたい場合は20分以上の有酸素運動が必要という認識の人が多いかもしれませんが、現在の定説では連続で10分でも作用が得られます。つまり10分の有酸素運動を1日3回に分けて別の時間に行ったとしても、連続で30分運動を行ったのと同様の作用があるとされています。尚、それぞれの10分間に関しては途切らせずに運動をする必要があります。
膝や腰が痛い時は体重が減少するまでは、自転車(エアロバイク)や水中歩行など関節に負担がかからない運動を選んでください。
歩行運動では一日1万歩、消費エネルギーとしてほぼ160~240kcalは適当とされています。しかし一日1万歩を目標にするのは時間に余裕がある人では可能かもしれませんが、「忙しくて運動する時間がとれない」「運動が好きではない」人が多いのも現状。そのような人はまずNEAT(ニート)を増やすことを目指しましょう。
NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesisニート/非運動性活動熱産生)とは「日常の生活活動で消費されるエネルギー」のことで、身体活動によるカロリー消費の中では「意識して行う運動」と同様に消費カロリーに大きな影響を与えることが最近の研究でわかってきました。特別な運動をしなくても、NEATを増やせば、メタボや糖尿病を防ぐことができるのです。
肥満気味の人はやせ気味の人よりも1日平均2.5時間座っている時間が長く、立つ・座るといった動作や歩く時間も少ない、つまりNEATが少ない傾向があると報告されています。NEATは座ったり、立ったり、うろうろしたりするといった姿勢の保持のための消費カロリーで、当然のことながら、姿勢を保持している時間は長いため、結果として消費カロリーに大きな影響を与えます。
逆に、長時間座ったままで仕事をしたり、じっとして過ごしたりしていると、消費カロリーが少ない状態が続くことになります。
これらのことから、仕事が忙しく運動する時間がとれない場合は以下のような普段の生活や仕事の場面などでこまめに体を動かすことをおすすめします。あえて無駄な動きをすることがコツです。エネルギー消費量は、立っているだけで安静時より1.2倍、歩けば3倍にアップします。
- NEAT習慣を身につけよう
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- 歩ける機会は逃さず歩く、歩くときは大股で早歩き
- エレベーター・エスカレーターを使わず階段を使う
- 通勤では一つ手前の駅で下車して歩く
- 電車内の席には座らずに、姿勢を伸ばして立つ
- 姿勢をよくし、長時間座り続けるのは避ける
- 掃除などは「運動」だと思って体を大きく動かす
- テレビを見るときは横にならない、ストレッチやヨガをしながら見る
- 食事は一口ずつよく噛む
このように日常の些細な行動がカロリー消費量を増やします。
1月に体重1kg減量するには?
1gの脂肪組織は約7kcal(キロ・カロリー)に相当します。例えば1力月で1kgの脂肪組織を減らすには、1日233kcalのマイナスバランスにする必要があります。これを数式で表すと1000(g脂肪) × 7(kcal/g脂肪) ÷ 30(日) = 233(kcal/日)となります。
食事療法だけで1kg減量するなら一日に必要な摂取カロリーから233kcal、食べ物ならご飯1杯(140g)減量しなければなりません。
一方、運動だけなら速歩で消費するなら約60分かかります。運動だけ、または食事だけ、どちらかに偏ると対応が難しい。体重(体脂肪)を減らすには、運動で120kcal消費し、食事で120kcal減量するような両方をバランスよく対応することが効果的で、筋力アップにもつながります。